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    11/21/2009

    オレの倫理、オレを抱け 日本人のものの考え方

    今日の学習の狙いは

    「日本人が長い歴史を通してはぐくんできた

    独自なものの考え方の基本的な特色を見つめなおし、その長所、短所について考える」ということです。

    学習のポイントは

    1 「世界を自(おの)ずからの働きとして振り返る」

    2 「日本の風土が日本人の生き方に及ぼした影響について考える」

    3 「人との調和を重んじてきた日本人の人間関係の特色について学ぶ」です。

     

    今日は日本人のものの考え方の特徴について考えてみるわけですが、

    日本人のものの考え方といってもそれは歴史的にもさまざまに変化してきましたし、

    また地域によってもさまざまに違いがあるでしょう。

     

    江戸時代の人の価値観と現代の私たちの価値観は相当違いますよね。

    あるいは関東の人の考え方と関西の人の考え方もしばしば違いがあるでしょう。

    さらにいえばひとりひとりの個性の違いもあります。

    それを日本人ということでひとくくりにしてしまうことは、本当は問題もありますよね

    したがっててこれからお話しすることは日本人のものの考え方の大よその傾向についてだという風に考えてください。

    それからまたそうした日本人のものの考え方の特徴をただ一方的に褒め称えたり、

    あるいは逆に一方的に批判ばかりするのも適切な対応とはいえないのではないでしょうか。

    どの地域の文化的なものの見方にも、長所と短所の両方があるはずです。

    私たちは日本人の伝統的なものの考え方に関しても、

    その長所と短所とを冷静に見極めて、長所をさらにのばし、

    短所を補っていこうとしなければならないでしょう。

     

    第一の学習のポイントは

    「世界を自(おの)ずからの働きとしてとらえる考え方をふりかえる」です。

    日本人にはものの考え方の大きな傾向のひとつとして“自ずから”ということを尊重する世界観があるといわれます。

    たとえば結婚式の案内状を出すのに、「このたび私たちは結婚することになりました」といったように、なりましたという表現をつかいます。

    私たち結婚しますというと、何か違和感がありますよね。

    そうした主体の強い意志とか決断を表すような表現を避ける傾向が日本人にはあるのではないでしょうか。

    それはつまり自ずからの流れのなかで自然とそうなりましたということを大切にする考え方なのです。

    そうした考え方は日本という国の成り立ちについて書かれた奈良時代の古事記という書物にもすでに見られると考える人もいます

     

    たとえば古事記の冒頭で日本の神々のなりたちについて説明しているところがあります。

    それによると日本の神々というのは次々になったと書かれています。

    つまり日本の神々は何者かを生んだり、創ったりしたのではなくて、自然となりいれたものだというのです。

    あるいはある神様の成り立ちについて、

    水辺の葦、植物の葦ですね、葦の芽がすーっと伸びていく様子によって表現しているようなところもあります。

    それは神々についてばかりでなくこの世界全体についてもそうしたイメージによってとらえられているように思われます。

    つまり古代の日本人はこの世界全体が次々に成りゆく勢いといったものによって生成し発展していると考えているようなのです。

    キリスト教などではこの世界は神様が何もないところから創り出した、創造したととかれています。

    それに対して古事記では、神々もこの世界も、何者かがつくったのではなくて、

    自然のうちにある自ずからの勢いによって生成したものと考えられているんです。

    そうした考え方はあるいみではこんにちに至るまで日本人のものの考え方に大きな影響

    しかしこうした考え方にはプラス面とマイナス面とがあるのではないでしょうか。

    人間を世界から切り離されたものと見ないで自然全体の大きな流れのなかでみいこうという考え方は、一面ではとても大切なことだと思われます。

    現在叫ばれていつエコロジー的な考え方にもかなうものだと思います。

    しかし反面そうした考え方は自ずからの流れにまさに流されてしまうということにも。

     

    たとえば日本人はよく時流、時の流れに乗り遅れるなという言い方をしますよね。

    しかしそうした考え方では、時代の流れから一歩ひいて、世界を客観的にみて、それでいいのかという反省はうまれません。

    これからの私たちは自ずからの働きを尊重する考え方のマイナス面にも注意をむけていかなければならないのではないでしょうか。

    以上第一の学習のポイントは「世界を自ずからの働きとしてとらえる考え方を振り返る」でした。

     

    第二の学習のポイントは「日本の風土が日本人の生き方に及ぼした影響について考える」です。

     

    先ほどお話ししました自ずからの働きを尊重するという日本人のものの考え方の特徴は、日本の自然環境とか風土といったものから生まれでたのではないかと考える人もいます。

    たとえば和辻哲郎という人は「風土」という著作の中で世界の風土を、モンスーン型、砂漠型、牧場型の三種類に分けています、それによると日本を含めたアジア全体はモンスーン型というものに属します、モンスーンというのは南の大きな海から暑くて湿った空気を運んでくる季節風のことです。

    この暑く湿った空気は植物の生育を促します、そのためモンスーン地方では豊かに植物が茂り、多くの動物も生息するようになります。

    その結果その地方に住む人々は、そうした自然の豊かな恵みを享受することができます。

    そのため自然に対して受容的、受け入れる、受容的な人間になる。

    ただし豊かな自然の恵みをもたらす、そうしたモンスーンは、ときにはゆきすぎて台風などの自然の暴威となって大風や大雨をもたらすことも少なくありません。

    そうなると人々はそれが通り過ぎるのをひたすら待つしかありません。

    つまりそこでは人間が忍従的、忍ぶ、従うですね。忍従的になるというのです。

    このように受容的であれ、忍従的であれ、モンスーン地方の人間は自然にたいして受身になっていくというのです。

    そうしたことが日本の場合、先ほどお話したような自然の自ずから働きにしたがうを良しとする考え方を生み出したとみることもできます。

    こうしたモンスーン型の人間は砂漠方や牧場方の人間とは違うと和辻はいいます。

    砂漠方というのは中東地方のことですが、砂漠では自然の恵みはほとんどありません。

    わずかばかりの自然の恵みを勝ち取るために、自然そのものにたいしてあるいは他の部族の人間のたいして戦いを挑まなければなりません、したがって砂漠型の風土では人間は対抗的、戦闘的になると和辻はいうのです。

     

    一方牧場方というのはヨーロッパのことです、和辻によれば、ヨーロッパというのは自然が適度のため、一年中牧場にみられるようなやわらかい草で国土が覆われています、そこではモンスーン型に比べれば、自然が猛威を振るうというようなこともすくなくて、

    、人間が自然をコントロールして、人間に役立つようにつくりかえることが比較的容易だというのです。

    そこからヨーロッパの人間の自発的、合理的性格がうまれたと和辻はいいます。

    以上のように和辻は世界の風土を三つにわけ、それぞれの風土の違いによってそこに住む人々の違いも生まれてくるといいます。

    ただし和辻はだからといって人間の性格は風土によってまったく決定されてしまっているとはいいません。

    人間は風土から影響を受けながらも同時にそれを乗り越えていく自由ももっているというのです。

    したがってモンスーン型の人間は自らのモンスーン的な性格を自覚しながらも、その受容的、忍従的な性格だけに安住してはいけないというのです。

    そこに砂漠型や牧場方の人間の優れた面、すなわち能動性とか合理性といったものを積極的にとりいれていかなければならないと和辻はいいます。

    以上第二の学習のポイントは「日本の風土が日本人の生き方に及ぼした影響について考える」でした。

     

    第三の学習のポイントは、

    「人との調和を重んじてきた日本人の人間関係の特色について学ぶ」です。

    日本は島国だということもあって大陸にある国のように絶えず、異民族の脅威にさらされたり、数多くの民族と共存したりするという歴史があまりなかったのではないでしょうか。

    もちろん日本も決して単一の民族によって構成されているわけではありません。

    しかし他の国に比べると比較的同質性のたかいひとびとが外からの脅威をあまりうけずに閉鎖的にくらしてきた場合が多かったといえるのではないでしょうか。

    そのため日本では共同体の和というものをなによりも尊重してきました。

    とくに米作りでは多くの人が協力する必要があります。

    そのため日本の村では人々が協力してお祭りをしたり、古くからのしきたりを守ることによって村人みんなが心をひとつにしてきました。

    そうした日本人の生き方は、義理人情を大切にしたり、恥といったものに敏感である姿勢となってあらわれています。

     

    “義理”というのは人から何かしてもらったとき、あとでその人に必ずお返しをしなければならないという考え方です。

    つまり人から何かしてもらったとき、それを“恩”と感じ、恩返しをしなければならないのです。

    日本人は人から何かしてもらったとき、「すみません」とよくいいますよね。

    この場合の“すむ”というのは、“返済する”ということです、つまり今は返済できません、恩返しはできません、しかし後日必ずいたしますという意味なのです。

    こうした義理といったものは人情というものと対立するものであるかのようにしばしば言われたりします。

    しかし本来は義理というものは人が自分にしてくれた人情にたいする感謝の心をベースにしたものなのです。

    つまり義理というものは、“人情に基づいたもの”だったといえるでしょう。

    こうした義理ばかりでなく、日本人は恥というものも非常に気にします。

    ベネディクトというアメリカの文化人類学者の書いた「菊と刀」という有名な本がありますが、そこではベネディクトは日本の文化を恥の文化と規定しています。

    日本人が恥に敏感なのは、人目をきにしたり、人前で少しでも自分をよくみせようとする気持ちがつよいからでしょう。

    最近はあまり言われなくなりましたが、以前日本人の国民病として対人恐怖症というものがあるといわれました。これは人前に出ると恥ずかしくて顔が赤くなってしまったり、スムーズに言葉がでなくなったりしてしまうという心の病です。

    これも恥の文化が生み出したものでしょう、しかしこのことも結局人との関係を大切にするという日本人のものの考え方が反映しているのです。

    また日本人は上下関係を常に意識して目上の人に対してさまざまな敬語をつかいますよね。

    あるいは宴会などでみんなが同席する場合には、どこが上座でどこが下座かといったことをとても気にします。

    このように人間関係の和というものを尊重する考え方はこんにちにも及んでいます。

    最近は見直されたりしていますがこれまでは日本の会社組織は日本型経営という考え方によって運営されてきました。

    それは終身雇用といって定年まで会社がちゃんと面倒をみてあげるシステムです

    そのかわり社員同士は心をひとつにして会社のために一生懸命働かなければなりません。

    そこでは従業員の一体感がなによりも重視されたのです。

    日本人にとって会社は単にお金を稼ぐ場所というわけではなくて、みんなが心をひとつにして働く心のよりどころでもあったのです。

    以上のように日本人は長い間人との和を重んじてきました。

    それはとても大切なことです、しかしそのために多くの日本人は孤立を恐れずひとりでも力強くいきていくという態度と、まったく異なった価値観をもった異文化の人たちと、新たな関係をつくっていくという態度を養ってきませんでした。

    これから私たちはそうした態度もみにつけていかなければならないでしょう。

    第3の学習のポイントは「人との調和を重んじてきた日本人の人間関係の特色について学ぶ」でした。

     

    今日の学習の狙いは、日本人が長い歴史をとおしてはぐくんできた独自の文化の

    その長所短所について考えるということでした。

    そして学習のポイントは

    1 「世界を自ずから働きとしてふりかえる。」

    2 「日本の風土が日本人のいきたかにおよぼした影響について考える」

    3 「人との調和を重んじてきた日本人の人間関係の特色について学ぶ」でした。

    日本人のものの考え方にはすばらしい面がたくさんあります、

    しかしそれと同時にマイナス面にも目をそむけることなく少しでものりこえていけるように努力しなくてはならないでしょう。

    それでは今日はこのへんで。

     

     

    講義・日本女子大学教授 田中久文

    ラジオの書き起こし・オレ

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